研究概要 |
血管壁が血漿に対して透過性を有することに起因する一種の濾過作用により、血管内膜表面上でコレステロールの担体であるリポ蛋白の流速依存性濃縮現象が起こり、これが原因となって動脈硬化の局所的発症及び進展を招くことが先の理論解析の結果示唆された。そこで本研究では、血管内膜表面上でリパ蛋白の濃縮が起こった場合における水の透過速度が濃度に応じて低下することを利用して、この現象の起こることを間接的に証明しようと考え、血管のモデルとしてミリポアフィルタ上に播種培養した牛大動脈由来内皮細胞単層をアクリル樹脂製平行平板型流路に細胞単層が0.5mmの間隔を保った流路の一部を形成するようにして装着したものを用いて37℃で流れの実験を行い、細胞単層における灌流液(細胞培養液)の透過速度におよぼす灌流液中の血清(リポ蛋白質を含む)濃度及び流れ(従って壁腺剪断応力)の影響について検討を行った。その結果、培養血管内皮細胞単層における水透過速度,V_Wは、灌流液中の血清(リポ蛋白)濃度に応じて異なった値を示し、その値は濃度が高いほど低くなることがわかった。この事は、V_Wを測定することにより内皮細胞単層表面におけるリポ蛋白の濃度を推定することが可能であるという事を暗示している。また、V_Wは、流速(従って壁剪断応力)によって可逆的に変化し、流れが遅いほど小さな値(従って内皮細胞単層表面におけるリポ蛋白の濃度は大きい値)を示すことがわかった。例えば血清を20%含んだ培養液を10mmHgの圧力下で壁剪断応力が0から15dynes/cm^2になるように流量を変化させて灌流した場合、V_Wは、3.3×10^<-6>から13.8×10^<-6>cm/secへと可逆的に変化した。全く同様の現象が透析用半透膜チューブでも見られ、この事より生体血管内皮細胞単層において見られた壁面における水透過速度が流速(壁剪断応力)に応じて変化する現象が単なる物理化学的現象であり、壁面上でリポ蛋白分子の濃縮が起こることによるものであることがわかり、理論的仮説を実験的に証明することが出来た。
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