研究概要 |
これまで、顎骨の力学的挙動を解析する際に必要な基礎的データを体系的に把握することを目的として,顎骨から微小試験片を採取・整形する方法および微小試験片の曲げ試験を行うための装置を開発し,材料力学的手法を用いて下顎骨の局所的ヤング率を測定してきた.今年度は、さらに小児下顎骨と成人上顎骨について測定すると共に、試験片の組織構造と空孔率を調べ、以下のことがわかった。 上顎骨のヤング率は、前頭突起部は眼窩の内側縁と鼻骨に挟まれた部分で,眼窩内側縁に沿った方向で大きく10〜15GPa程度の値を示した。眼窩の内側縁と直交する方向では5GPa程度の小さな値を示した。上顎骨体前面部は眼窩下縁に相当する部位で10〜15GPa程度の大きな値を示した.梨状口に沿った部位では5〜10GPa程度の値で,眼窩下縁と比較するとやや小さかった.また,これと直交する方向は5GPa程度のさらに小さい値であった.眼窩下孔から犬歯窩の下部では5〜10GPa程度で,方向による違いがあった.頬骨突起状は10〜15GPa程度の比較的大きな値を示した。上下方向よりも左右方向が1.5倍程度大きかった.ただし,頬骨と縫合部に近いところではやや小さい値であった.頬骨下稜に相当する部分のヤング率は15GPa以上の値であった.歯槽突起部のヤング率はどの方向においても他の測定領域より小さい5GPa以下の値であった. 下顎枝部で成人と小児を比較すると、ヤング率の異方性は成人,小児ともに同様の傾向を示したが,各方向毎に成人と小児のヤング率を比較すると全ての方向において成人の値が1.4倍程度大きかった. SEMにて表面の組織像を観察したところ、ヤング率の大きな値を示した試験片では長軸方向と平行に骨単位,骨層板ならびにコラーゲン線維束が走行しているのが観察された.また、試験片の空孔率は,成人が約2.7%,小児がばらつきが大きいものの約13%であり,成人の方が顕著に小さい値を示した。
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