研究担当者は、超臨界二酸化炭素(SC-CO2)中で種々の酵素反応を行ったところ、ポリフェノールオキシダーゼやカタラーゼなどの金属を活性中心にもつ酸化還元酵素は、他の酵素に比べて不安定で容易に失活することを認めた。そこで本研究では、この金属含有の酸化還元酵素がSC-C02中で失活しやすい原因を追究するため、食品の劣化に関与し、かつ反応機構や活性部位の構造が比較的解明されているペルオキシダーゼを取り上げ、SC-CO2による酵素の阻害様式を動力学的に考察した。酵素としては西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼを用い、リン酸緩衝液に溶解後、圧力10-20MPa、温度35℃のSC-CO2を導入した。その結果、酵素は処理時間とともに擬一次反応的に活性が低下したが、濃度が高い状態では酵素は安定化した。一方、SC-CO2による酵素の阻害様式を熱やpH低下による失活と比較したところ、Lineweaver-Burkプロットにおいて、SC-CO2処理では、基質のピロガロールに対し非括抗的、H202に対し不括抗的阻害様式を示すことから、熱やpH低下による阻害とは異なることが明らかとなった。またペルオキシダーゼの紫外可視部吸収スペクトルにおいて、酵素に含まれるヘム由来のSoret帯吸収(402nm)がSC-CO2処理により著しく減少すること、および円偏光二色(CD)分析においてヘム近傍の構造に由来する400-500nmのCDスペクトルがSC-CO2処理により正から負へと変化することから、SC-CO2によりペルオキシダーゼ内のヘムをめぐる立体構造が大きく変化していることが示唆され、このことが金属含有の酸化還元酵素が他の酵素よりもSC-CO2処理によって失活しやすい原因と思われた。
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