酸化物高温超伝導体では多くの研究が行われているが、超伝導機構解明の重要知見である超伝導ギャップの対称性に関しては、未だ解明されていないのが現状である。本研究の目的は、電子ラマン散乱分光により酸化物高温超伝導体の超伝導ギャップの対称性を解明することである。電子ラマン散乱分光実験において重要な点は、以下のとうりである。 1.30K以下の低温度領域において電子ラマン散乱スペクトルの精密測定。 2.純粋に電子応答のみを得るために、電子応答測定に不用なフォノンラマン散乱の除去。 これらを達成するために、(1)広い温度領域で測定可能な光学実験用クライオスタットを購入し、精密測定に充分の安定性を得た。(2)波長可変な色素レーザーを電子ラマン散乱用励起光源として用い、フォノンラマン散乱の抑制を図った。その結果、ほぼ純粋な電子応答が観測可能となった。 準備した測定系を用いて、Bi系高温超伝導体の単結晶において電子ラマン散乱の偏光依存性・温度依存性の精密測定を行い、以下のような成果を得た。 1.超伝導状態における低エネルギー電子ラマン散乱強度の温度変化に著しいab面内偏光依存性が存在することを初めて見いだした。この結果は、酸化物高温超伝導体がd波超伝導であり、さらに超伝導ギャップがx^2-y^2の対称性を持つ場合とよく一致することがわっかた。 2.準備した測定系の基礎特性の確認をかねて、臭素をインターカレートしたBi系超伝導体単結晶試料の電子ラマン散乱分光を行った。その結果、臭素インターカレーションによりCuO_2面にホールが添加されることがわかった。
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