本研究は、多核錯体を活性化するための鍵になる配位子として、多環式芳香族化合物や球状炭素クラスターC_<60>の共役π電子とd電子の相互作用により、多核錯体の金属中心の活性化の可能性を追求してきた。今年度の成果として、以下の新しい事実が明らかとなった。 (1)ルテニウム3核錯体の面上での有機基質の水素化:アセナフチレン類とアズレン類を配位子とした3核錯体において、3核錯体の水素化における金属の協同効果を明らかにする目的で、水素化条件を変化させたときの速度と選択性を詳しく検討した。その結果、3核構造を保ったまま進行する反応経路が明らかに存在すること、ならびに、反応の途上で、共役したπ電子と多核金属種が位置の変換を伴う相互作用があること明らかにした。また、ほぼ同様な骨格を有するルテニウムにおいて条件を詳細に変えて検討した結果、あきらかに鉄錯体はルテニウム錯体に比べて反応性に劣ること、2、4核錯体が100度近い温度を必要とするのに対し、3核錯体はより低温で反応が進行する経路があることを明らかにした。 (2)ヒドロシランとの反応:一酸化炭素、2酸化炭素の還元に有利であると期待されるヒドロシランを還元剤として検討した結果、3核錯体との反応でヒドロシランが酸化的付加した錯体が単離された。また、その錯体の触媒作用がオレフィン、アセチレン等のヒドロシリル化反応においてあることを発見した。 (3)水素化に強いπ電子配位子をもつクラスターの設計:アズレンやアセナフチレンと同様な効果を有し、かつ、水素化に強いπ電子配位子として、球状炭素クラスターC60に注目し、C_<60>を配位子として含む金属クラスターの分子設計、合成、基礎反応過程が探索をおこなった結果、初めての成果として、C60上の炭素と白金原子間にイソニトリルが挿入した錯体の合成に成功した。
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