気相分子の化学反応の磁場効果の解明を目的として、研究を進めているが、本年度は、 1.気相二硫化炭素のレーザ誘起エアロゾル生成反応に及ぼす磁場効果の研究 2.気相二硫化炭素の高励起状態からの発光の磁場消光の研究 を進めた。具体的には、以下のとおりである。 1.(1)この生成反応の生成物の組成が未知であるため、まず、この生成物の組成及び反応過程を実験的、理論的に研究した。その結果、生成物は、従来予想されていた(CS)_nポリマーや(CS_2)_nポリマーではなく、炭素ポリマーと硫黄ポリマーとの混合物である事を実験的に明らかにした。また、半経験的分子軌道法を用いた理論計算の結果、六員環からなる環状炭素ポリマーが安定である事が分かった。また部分的に五員環が含まれても安定性に影響のない事が分かった。更に、固有反応座標解析から、エアロゾル生成反応のシナリオが明らかにされた。(2)気相二硫化炭素のレーザ誘起エアロゾル生成反応において、エアロゾルバーストと名付けられた非線形振動現象の周期揺らぎ分布に関する実験則を理論的に誘導した。(3)これらの基礎研究を踏まえ、この反応系の磁場効果の研究を進めた。その結果、光励起状態から、交換交差により三重項状態ヘ分子内遷移する場合と内部転換により高振動励起基底状態へ分子内遷移する場合とがあるが、三重項状態からのエアロゾル生成は光励起状態からよりも抑制され、基底状態からのエアロゾル生成は三重項状態からよりも速い事が明らかにされた。 2.気相二硫化炭素の磁場消光を310-335nmの波長範囲にわたって観測し、(1)磁場消光は、僅かな励起波長の変化に対しても大きく変動すること、(2)しかし、全体的には、単励起波長程磁場消光が減少する傾向にあることを明らかにした。
|