光化学反応初期過程で生じるラジカルイオン対(RIP)のスピンダイナミックスを時間分解ESR法、遅延蛍光検出時間分解ESR法を中心に、さらに遅延蛍光への磁場蛍光、光電導度に及ぼす磁場効果等新しい研究手法を用い、交換相互作用の符号と、レベル交差の問題を研究した。系としては、TMPDの光イオン化過程で過渡的に生じるラジカルイオン対に関して研究を集中的に行った。 1)時間分解ESR法からは、準安定ラジカルイオン対の検出と、それが正の交換相互作用を持つことを確認した。低能度TMPDの測定から、放出型の未知のスピン分極の存在が認められた。この放出型の分極は遅延蛍光の磁場効果の結果から、光分解直後の早い時間領域において、S状態とT_<+1>状態間でレベル交差が起き、誘起されたものと解釈された。高濃度において遅れて立ち上がる吸収型の溶媒和電子によるCIDEP信号は、散逸ラジカルからの自由対によるものと結論できた。光電流の磁場効果から、ラジカル対の消失がTMPDの励起三重項状態になる過程であることが明らかとなった。 2)遅延蛍光検出時間分解ESR法の開発により、ESRの共鳴点で遅延蛍光強度の減少が観測された。このことから、逆電子移動によりTMPDの励起状態になるラジカルイオン対は、一重項前駆体から生成していること、またイオン化は主に励起一重項状態から起きていることが示された。このラジカルイオン対に関しては、マイクロ波による量子振動現象が観測され、今後の光検出による研究に大きな可能性をもたらすものである。 3)遅延蛍光検出による外部磁場効果から、このラジカルイオン対に関して、S-T_<+1>混合によるレベル交差の可能性が示唆された。ただしこの効果は磁場により穏やかに飽和する傾向を示した。このことは、この系においてレベル交差をするための交換相互作用の値が、かなりの分布を持っているためであると考えられる。
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