基底関数展開を用いるRoothaan-Hartree-Fock近似の原子波動関数は、それ自身、原子の電子状態の解明に基本的情報を与えるだけでなく、分子系への応用における基底関数を提供するという重要な役割を持つ。1974年、ClementiとRoettiによって発表されたHeからXe原子までのRoothaan-Hartree-Fock(RHF)波動関数は、Slater型基底関数(STF)を用いた標準的な原子波動関数として、様々な研究に利用されている。しかしながら、Clementi-Roetti波動関数には種々の問題点がある事も知られている。1993年、Bungeらは中性原子に対してその改良を報告したが、使用したSTFの主量子数{n}や軌道指数{ζ}の最適化がまだ不十分であった。本研究ではまずSTFの{n}と{ζ}の同時最適化を行い、中性原子He-Xeに対する波動関数を改良した。次に同じ手法を使って、一価のカチオンLi^+-Cs^+およびアニオンH^--I^-に対する正確なRHF波動関数を開発した。 最初の3つの周期のすべての中性原子とイオンに対して、本研究のRHFエネルギーのNHF(数値的Hartree-Fock)極限値からの平均誤差は0.3×10^<-6>hartreesを越えない。また、第4周期では5×10^<-6>hartreesを、第5周期では8×10^<-6>hartreesを越えない。s^-、p^-、d-対称性の最外殻軌道の今回のRHF軌道エネルギーのNHF値からの平均誤差は、すべての原子・イオンについて3×10^<-6>hartreesを越えない。また、今回のすべての波動関数のビリアル比の真の値(-2)からの誤差は、1.0×10^<-7>以下であった。 今回のRHF全エネルギーのNHF値からの平均誤差は3μhartreesであり、CRに比べて、中性原子・カチオン・アニオンとも3桁向上している。また、Bungeらの中性原子の結果に対する全エネルギーの最大の改善は、Cu原子の13μhartreesであった。 Bungeらは、中性原子について電子密度ρ(r)の原子核位置(r=0)での値と電子-原子核カスプ値C_<en>も報告している。しかしながら、彼らの値は軌道の電子占有数を考慮にいれておらず、誤りである。我々は、今回のRHF波動関数からρ(0)とC_<en>を計算した。すべての中性原子・カチオン・アニオンについて、今回のρ(0)値は、NHF値と有効数字4桁で一致した。また、C_<en>はすべての場合で0.9997から1.0009の範囲にあり(真の値は1)、今回開発したRHF波動関数の正確さを支持している。
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