自己双対ヤン-ミルズ方程式を佐藤のグラスマン多様体の枠組で捉えることは、まず高崎により試みられ、次に佐藤等により、「高次元KP」理論が作られたが、プリュッカー座標乃至タウ函数のレベルでは、1次元的なKP理論の時には無かった種類の発散の困難が生じた。一方、自己双対ヤン-ミルズ方程式のある種のリダクションは1次元的なKP理論の枠組で捉えられるが、とりわけAblowitz等によるリダクションでは、タウ函数の満たすべき微分方程式としてあるモデュラー形式の方程式が得られ、これは佐藤・大山によって微分環の立場から研究されている方程式の一番簡単な例(Halphen系)と一致している。また最近、高崎は「高次元KP」理論をMoyal代数を用いて一種の無限成分(1次元的)KP理論としてとらえ、タウ函数を定義した。 本研究では、先ず高崎のMoyal代数による定式化で自己双対ヤン-ミルズの場合に当てはまる様に変数を増やし更にゲージ群がSU(2)上の体積保存微分同型群の場合を考え、そのゲージポテンシャルがAblowitz等による自己双対ヤン-ミルズ方程式のリダクションから得られるHalphen系の解で表せる場合を調べた。これによって、元の「高次元KP理論」での「タウ函数」に関する何らかの知見が得られると期待したからである。しかし、Ablowitz等によるリダクションの場合と、「高次元KP」理論の場合や高崎の定式化を自己双対ヤン-ミルズに当てはめた場合とではゲージ固定の仕方が違う為、一応対応は辿れるものの、残念ながら今の所タウ函数同志のすっきりした関係は見出だせていない。 「高次元KP」理論では、一般の初期値から出発すればそのプリュッカー座標の時間発展は発散するが、何らかの意味で準周期的な場合には、有限的に扱えると予想される。そこで、多変数のモデュラー形式を使って表される様な自己双対ヤン-ミルズ場を見出すこと、その様な高次元的な「準周期解」佐藤・大山の理論の言葉を用いて統一的に理解することが今後の課題である。
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