当初計画していた通り、対流しつつあるマントル中のマグマ移動の数値シミュレーションに成功し、初期の地球の中で期待される高温の上部マントルの熱的化学的進化の数値モデルを構築した。この数値モデルから、上部マントルの進化には、火成活動により上部マントルが放射性元素にどの程度欠乏するかによって大きく分けて二通りの可能性のあることが示唆された。(a)この欠乏の程度があまり著しくない場合には、上部マントルの進化は二段階で起こる。初期には強い火成活動が起こり、上部マントルは化学的に成層し深部の温度はソリダス近辺とかなり高くなる。このような深部における高温にもかかわらずソリスフェアの温度はそれほど高くはならない。この時期には地表面から650kmまでとどくようなマグマのパイプや大規模なダイアピールが何度も生じその中をマグマが上昇する。やがて、放射性元素の壊変が進み内部加熱が弱くなると、ある時点でこの化学的成層は突然こわれ、上部マントルは化学的に均質になり、上部マントル深部の温度も一気に数百度下がる。以降この比較的低温で化学的に均質な状態が続く。この深部における温度の低下にもかかわらず、ソリスフェア内の温度はほとんど低下しない。(b)他方、火成活動により上部マントルが放射性元素に極端に欠乏するときは、上部マントルは地球史の初期の段階で急激に冷却し、火成活動は始めから弱く、上部マントルにおける化学的成層も初期の段階からあまり発達しない。アーキアン(25億年以上前)の時代のコマチアイトや変成岩、ダイヤモンドなどの観察からは、この時代には、大陸ソリスフェアは比較的冷たかったにもかかわらず上部マントル深部にはかなり高温の場所が存在していたことがわかっており、上記の数値シミュレーションの結果との比較から地球の上部マントルは、(a)のような進化をとげたと考えられる。
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