研究概要 |
炭素球殻内に金属を内包した金属フラーレンは超伝導やクラスター特有の磁性の発現などをはじめとして新しい物性の探索の面で極めて大きな可能性を持っている。 本研究ではGd@C82金属フラーレンの“endohedral structure"の検証を目的として高分解能電子顕微鏡観察と電子回折の実験を行った。実験はSc2@C84などと同様、CS2溶媒を蒸発させて得た微結晶をそのまま電顕観察すること、及び高分解能電子顕微鏡に新しく付加した試料作製トランスファー装置を用いて分子層レベルのGd@C82の結晶を観察することを行った。この装置では10^<-8>Torr以下の超高真空中で各種の基板上へ金属フラーレンの分子線蒸着を行い,そのまま非大気露出条件で顕微鏡内に転送し即時に原子レベルの観察ができる。Gd@C82の数モノレ-ヤ-以下の分子層は、通常使われるカーボン膜などの支持膜では、像の背景にノイズ像を生じ原子レベルの観察は不可能である。本実験では我々が開発し以前C60の分子像の観察に成功した極薄MgO単結晶蒸着膜を支持膜に使用し、その上にGd@C82を蒸着した。 Gd@C82は200Cの基板温度の今回の実験ではかなり“disordered"な島状結晶が成長した。この試料の高分解能像には、0.5-0.6nmの点間隔をもちGdの単原子に相当すると解釈される黒い点が多数観察された。これらの間隔は電子回折図形上の斑点の間隔に対応し、溶液から作製した試料から得た格子縞の間隔ともほぼ一致していた。 本研究では,高分解能電子顕微鏡法を用いてSTM法と同様分子層レベルの金属フラーレンの構造が直接観察できることが示された。この方法では分子の内部の情報をも得ることができるため“endohedral structure"の検証のための研究への発展が期待できる。
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