本研究ではC_<60>結晶のラマン散乱測定に近赤外レーザーを用いることで、C_<60>分子の光重合を避け、かつ高分解能でスペクトルを得ることができた。 (1)相転移温度近傍では従来報告されていたようなラマン振動数の不連続変化はどのバンドに対しても起こらないが、バンド幅に急激な変化が生じ、転移点以上では幅が広くなるモードがあることを明らかにした。 転移温度(260K)以上ではC_<60>分子の向きが乱雑になる結果、分子間結合力に乱雑な空間分布が生じ、分子振動数が分子各に僅かに異なるために生じた不均一広がりがこのバンド幅の広がりの原因であると結論した。 (2)昇華法、およびトルエン、二硫化炭素中で溶液成長法で作製した種々のC_<60>結晶のラマンスペクトル測定を行い、昇華法で作製したC_<60>結晶の質が最も良く、相転移温度以下で結晶場分裂に帰因される微細構造を見出した。また溶液成長法で作製した結晶には溶媒分子が結晶内に乱雑に分布しているため、分子間力が場所によって異なり、スペクトルに不均一広がりを持つことを示した。この様なバンド幅に広がりを持つ結晶では相転移に伴うラマンバンドの変化はマスクされてしまい、昇華法作製の結晶に見られるスペクトル変化は観測されなかった。 (3)C_<60>結晶の分子間力を反映した格子振動モードを低温SC相において18cm^<-1>付近で観測し、このモードが転移点に近づくとソフト化するが振動数は零にならないことを確かめた。 本研究の結果は近赤外レーザーを用いた高分解ラマンスペクトルの測定がC_<60>結晶の結晶性評価に有力な手段であることを示唆した。
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