研究概要 |
今回は鎖状前駆体から大環状化合物をつくる反応の理論的な考察を行った。現在までに知られている理論的な取扱は環化反応の遷移状態における活性化エネルギーを環化生成物の歪みエネルギーから見積もる単純なものがほとんどである。我々は環化反応の立体選択性を遷移状態の構造から論ずることが適当と考えab initio MM2 遷移状態モデリング法を採用した。対象としたのは、発癌プロモーターの活性を抑制する作用のあるSarcophytol類の合成の際に見い出された、大環状エーテル形成反応の立体化学の解析である。 この反応では、中間に生成するペンジエニルカチオンが分子内の水酸基と結合するわけであるので、ペンタジエニルカチオンとメタノールの付加反応の遷移状態の構造をab initio法で求めた。さらにアルキル鎖の構造を我々が開発したflexibleな分子のあらゆる配座を自動的に発生させるプログラムであるMMRS用いて求め、その構造と反応部位のab initio法による構造を用いるab initio-MM2 遷移状態モデリング法を用いて計算を行ったところ、環化生成物の構造からは無理なく生成すると予想されたZ,Z-体はその遷移状態において非常に高い活性化エネルギをもつことがわかり、その生成が困難であることが示された。残る二つの生成物については対応する遷移状態がそれぞれ複数づづ得られ、それらのエネルギーを比較することにより実験での選択性を再現することができた。
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