研究概要 |
1.ヘムエリトリンモデルとしてのRu(III)二核錯体においてはμ-アルコキソ錯体の報告例はほとんど知られていない。本研究では、1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン-N,N,N',N'-四酢酸(H_5dhpta)を架橋配位子とする一連のRu二核錯体の合成とキャラクタリゼーションならびに電気化学的性質について詳細に検討した。 2.合成:M[Ru_2(dhpta)(O_2CR)_2](M=Na,K;R=(1)CH_3(2)C_6H_5,(3)C_6H_4-p-OH,(4)C_6H_4-p-NH_2;NaOHまたは、KOHでpH5に調製したH_5dhptaに、二当量のRu(DMSO)_4Cl_2を加えpH5に保ちながら85℃で攪拌し(約1時間)、更に、同様にpH5に調製した過剰のカルボン酸またはカルボン酸のNa/K塩を加え、490nm付近の吸収極大が充分に大きくなるまで85℃で攪拌した(16〜36時間)。暗赤色の反応液をSphadex G-15を充填したカラムで精製し(eluent;H_2O)、H_2OまたはH_2O-EtOH溶液から赤紫色の沈殿を得た。測定:サイクリックボルタンメトリー(CV)を測定し、定電位電解(-1.4〜-1.5V vs Ag/Ag^+)後、近赤外領域までの電子吸収スペクトルを日立330分光光度計を用いて測定した。 3.DMF溶液中におけるCVより一電子還元体が安定に存在することが示唆されたので定電位電解を行い、一電子還元体の近赤外領域までのABを測定した。いずれの一電子還元体も850nmと1800nm付近に二つの吸収帯をもつ。このうち低エネルギー側の吸収帯は混合原紙価錯体に特有なIT吸収帯(Intervalence Transfer Band)と帰属された。高エネルギー側の吸収帯は架橋酸素の孤立電子対に依るLMCTと考えられる。また、IT吸収帯のデータから混合原子価錯体のクラス分けを行った。その結果、Ru間の距離が短いにもかかわらずRuの不対電子がある程度非局在化したClassIIの混合原子価錯体であることが明らかとなった。今後は、磁気的性質ならびに電子構造等の検討、さらには一電子還元体の単離、結晶化を行い、新反応系の構築を目指して行きたい。
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