本研究では、還元により機能の変化するアソベンゼン修飾界面活性剤を合成し、卑金属上への有機薄膜の無電解めっきへの応用を検討した。アゾベンゼンを疎水部とした界面活性剤(AZPEG)を合成し、用いた。吸光係数の濃度依存及び表面張力法より求めたAZPEGのCMCは約10μMであった。これらの界面活性剤の0.1M HC1水溶液のCVは-0.2V vs. SCE付近に非可逆な還元波を示した。この溶液にアニリンブルーを可溶化させ、定電位還元したところ、アニリンブルーの可溶化量が60分の1となり、AZPEGは還元により界面活性剤としての機能を失うことが明らかとなった。次に、1mM AZPEGの0.1M HC1水溶液に15mMβ型銅フタロシアニン(CuPc)を分散させ、銅板を20分間浸漬したところ、透明な緑青の薄膜が得られた。同様に、鉄、亜鉛、錫、ニッケル、アルミ等の卑金属上にも薄膜が生成した。一方、白金、パラジウム、銀等の貴金属上及びITO上には薄膜は生成しなかった。このことから、金属による界面活性剤の還元により薄膜の生成が進行すると考えられる。また、同様の方法でペリレンバーミリオン、ジアントラキノイルレッドなどの多数の顔料も薄膜化できた。CuPc薄膜のSEM写真より、膜厚は浸漬時間30分で約1μmで均一で粒子を積層したものであった。また、膜の粒子サイズ、結晶型は使用したものと一致していた。さらに、得られた薄膜を5mM Brij35の水溶液に分散させた分散液の可視吸収スペクトルは使用した顔料の分散液のものと一致していた。これらの結果より、被薄膜化物質は薄膜化の過程において化学変化せず、その結晶型も維持されることが明らかとなった。さらに、膜厚は浸漬時間により0.1から4μmの範囲で制御できることが明らかとなった。
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