研究概要 |
炭化水素類を温和な条件で選択的に酸素化し、官能基を持った化合物に誘導できれば合成化学的に極めて有用である。ルテニウム錯体は、脱水素反応や酸素化反応の触媒となることが知られており、高原子価ルテニウム種を選択的に生成させることができれば、温和な条件で選択的酸素化反応を行わせ得ると考えられる。我々はRu(II)-アミノ酸錯体の電解酸化によりRu(IV)種が生成する可能性が示唆されたことから非ヘム型高原子価ルテニウムによる電解酸素化反応系の構築を考えた。モノオキシゲナーゼの活性点の構造を参考にし、ポリアミン型でかつ複数のカルボキシル基を有する配位子(edta,edtra,N,N′-Me_2-edda,nta)やアミノ酸を用いて各種Ru(II)およびRu(II)イミノ酸錯体を合成した。これらクロロ錯体から溶液中でアコ錯体が生じれば、高原子価へ導くことによりオキソ錯体を与えると期待された。AgNO_3共存下でのサイクリックボルタンメトリー(CV)を検討し、edta錯体やN,N′-Me_2-edda錯体およびRuCl(tpy)(val-2H)錯体は+1V付近にRu(III)/Ru(IV)またはRu(III)/Ru(V)の酸化波を示し配位子のドナー性が大きくなると高原子価ルテニウム種の安定性が高くなることを明かにした。特にedta錯体では2電子移行の可能性が強くオキソ錯体の形成が示唆された。edta錯体系にシクロヘキセンを共存させたCVでは、+1.1V付近に大きな触媒波が現われ、Ru錯体をメディエーターとするシクロヘキセンの電解酸素化が進行することが明らかになった。上記のRu(III)クロロ錯体を用いてシクロヘキセンの酸素化を過酸化水素系で検討した所、やはりedta錯体を用いることによりエポキシドおよびジオールが触媒的に生成し効率的に酸素化反応が進行ことを見い出した。
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