配位子置換不活性のバナジル錯体(VO(salen))を対象に、多核錯体系における一段階多電子過程の構造要件を明らかにした。これを特定分子間の電子媒体として作動させ、多電子過程を経由する新しい酸化重合反応系を構築した。 前年度に一段階2電子過程の生起が実証されたバナジル多核錯体系を用いて、溶存基質(酸素)との多電子移動過程を物理化学的に解析した。多核錯体をNafion被覆膜を用いて電極に集積固定し、Koutecky-Levichプロットや回転リングディスク電極ボルタモグラムなどから、0.3V(vs.SCE)において酸素の4電子還元が選択度高く(70%)生起することを明らかにした。この結果から、一段階多電子移動を示す錯体が、多電子過程を経由した分子変換である具体例が得られた。 また、一段階多電子移動の機構解明を目的として、亜鉛ポルフィリンとの光誘起電子移動過程を時間分解閃光器を用いて解析した。遷移スペクトルから亜鉛ポルフィリンのカチオンラジカルのみ観測され、ジカチオンの生成は見られないこと、電子移動が2次の速度式に従うことから、光励起に伴う1電子過程が確認された。つまり、電極反応場での一段階2電子過程と異なり、より微小時間領域(nsec order)では一電子移動のみが生起する興味深い知見が得られた。^<19>F-NMR2の結果と併せ、対アニオンとの相互作用に基づく2電子移動機構が解明された。
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