超球座標法は電子相関の定性的記述に適しているのみならず、共鳴状態を扱うに安定な定量的な方法としても注目を浴びてきている。裸の原子核の周りを回る電子間の相関に加え、内殻電子を着た閉殻イオン外の電子相関を超球座標法で記述することを考える。 閉殻外の2電子を扱う試みはad hocながら、物理的に妥当と思われる境界条件を施すことで、光イオン化の実験をかなりよく再現する方法が提案されている。ad hocにならざるをえない理由は従来の超球座標法が差分法に根ざしていたためである。これは、射影演算子と相性が悪い。我々は基底展開をもとにした変分法に基づくR-行列伝播法を採用して、内殻の軌道を除去する方法を開発している。この方法では射影演算子を行列として表示できるので都合がよい。R-行列の方法は精度の面で差分法に較べ有利であり、一度の変分計算を行うことで広いエネルギー領域を覆うことができ有効である。 内殻電子による遮蔽を記述するにはモデルポテンシャルを用いるため、その精度の吟味も必要である。すでに種々のポテンシャルが提唱されているが、厳密な理論的背景のあるHartree-Fock近似を出発点とする。このため、交換力は非局所性を失うが2電子の相関を扱う上で基本的な問題は生じない。このモデルポテンシャルを用いてすでに中性のBeやMgなどのアルカリ土類金属を記述する試みはほぼ成功した。 平成6年度の研究実施においてはR-行列伝播法の開発とモデルポテンシャルの吟味、そして射影演算子の基底展開による表示という数理科学的基礎技術を思考錯誤で探求したといえる。現在は平成7年度中旬の光イオン化および電子衝撃による励起とイオン化の計算にむけて準備中である。
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