本研究は、主として分子シミュレーションを用いて気液界面の分子ダイナミクスを追跡し、物質による蒸発凝縮挙動の差異を解明し、界面を通しての物質の相関輸送に現れる分子の個性を明らかにすることを目的としている。2年目にあたる本年度は、アルゴン(単純液体)とメタノール(会合性液体)の凝縮係数が大きく異なるという昨年度の知見を基に、会合性液体の凝縮挙動を種々の物質について広い温度領域にわたって調べ、次の結果を得た。 1.会合性液体(メタノール・水・酢酸)の凝縮係数は、単純液体と比較して有意に小さい。特に、分子間に2重の水素結合を形成して安定な気相2量体となる酢酸については、凝縮係数は0.1以下である。 2.会合性液体においても液体表面における自己反射は10%程度であり、凝縮係数が小さい原因は、凝縮分子が液体分子を追い出す分子交換によるものである。 3.より高温(対臨界温度にして0.7程度以上)においては、凝縮係数は急激な低下を示し、単純液体においてさえ0.1以下となる。 4.こうした凝縮係数を定量的に予測するために、分子レベルでの簡単な伝熱モデルを構築した。モデル化は、遷移状態論に基づき蒸発速度を予測するものと、液体表面で放出される潜熱の微視的スケールでの緩和を考慮して凝縮速度を予測するものの両方向から試みたが、特に、後者はシミュレーションで得られた凝縮係数の温度依存性を半定量的に再現することができ、有望と思われる。より、精密なモデル化は来年度の課題である。
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