研究概要 |
本研究の目的は、CVDプロセスにおいて基板近傍の微小な温度勾配が製膜速度および膜物性に及ぼす影響を検討することである。具体的な反応系としては今年度はWF_6およびSIH_4,Si_2H_6,SiH_2Cl_2を原料とするWSix(タングステンシリサイド)薄膜合成系を対象とした。WSix-CVDプロセスは前年度までの検討から、気相でのラジカル連鎖反応による活性なラジカル中間体の形成が反応の第一段階であることが分っており、このようにラジカル連鎖反応に支配されている系において、基板近傍に温度勾配が生じている基板加熱型反応器においてその温度勾配が気相反応にどのように影響を与えるかを考察することとした。また、反応系に種々のガスを添加することによって気相反応を制御する可能性についても検討を行った。 まず、反応機構がほぼ明らかとなっているWF_6/Si_2H_6系において、円管型反応器を用い、製膜速度分布および薄膜組成分布を観測した。反応器内のガスの流れ、温度分布などを流体解析ソフトウェア(Fluent)を用いて計算し、さらに気相および表面での反応を考慮したシミュレーションを行い、得られた実験結果との比較から、気相での反応速度定数を正確に求めることができた。この速度定数を用いて、基板加熱型反応器を想定したシミュレーションを行い、温度勾配が存在する場での反応過程の評価を行った。その結果、通常の基板加熱型反応器では、連鎖反応により生成した第1段階のラジカル種が主に製膜に寄与していることが分った。これは、基板近傍の温度勾配が大きいために、第2段階,第3段階のラジカル種は基板近傍でしか生成しないためである。今後、実際の基板加熱型装置でのデータと比較検討を行う予定である。 また、WF_6およびSiH_2Cl_2を原料とする反応系では、気相でのラジカル反応が遅く、高温での操業が必要である。また、反応の開始点が安定化しないため、プロセスとしての再現性に問題がある。そこで、SiH_4やSi_2H_6などのガスを添加し、反応の開始段階を制御することを試みた。その結果、通常は反応が起こりにくい低温度領域においても安定な薄膜形成が可能であり、膜組成なども問題のないことが分った。
|