申請者らは超高速に加速した電子線の照射を利用すると、従来の加熱・冷却法、液体超急冷法では得ることができない非平衡組織を有する新素材を作製できるだけでなく、ナノメートルレベルの超微細加工が可能になることを本研究より明らかにした。最新の高分解能電子顕微鏡に採用されている電子線技術を用いることにより直径を1nm以下に集束したナノ電子線を1nm単位で走査することができ、従来の電子線加工に比べ加工精度が飛躍的に改良されることを示した。また穴あけやパタ-ニングにとどまらずに電子線加工による表面清浄化を利用した金属間化合物、セラミックの常温接合などの本加工法の様々な応用技術を見出した。 具体的にはナノメートルサイズの極細電子線によって酸化マグネシウムを超微細加工し、基礎的な実験条件を把握した。(1)電子線の直径は約1nmまで収束できた。構造観察のために直径10nm程度までの収束させた電子線では空間分解能0.15nmまで保証できるように電子線制御が可能になった。(2)この電子線を用いて酸化マグネシウムに約1nmの穴をあけることや同尺度の外形加工を可能にした。(3)このような加工過程における構造変化を原子尺度の空間分解能、60分の1秒の時間分解能で観察することに成功した。(4)これらの観察から酸化マグネシウムは一般の電子線加工過程とは異なり融解状態を経ないで直接表面から脱離して加工が進行することを明らかにした。(5)酸化マグネシウム以外の酸化物(酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化コバルト)や半導体(テルル化鉛、硫化鉛、セレン化鉛)などについてナノ電子線加工過程の構造・組成変化を明らかにした。これらの研究結果から表面原子がキンクやステップなどの弱い結合サイトに拡散し脱離して加工が進行することを見出した。(6)加工終了直前における結晶粒界、転位、微小空隙等の格子欠陥のサイズの超微細化に伴う原子配列の変化を観察し、格子欠陥を含む領域での加工過程を明らかにした。(7)ナノ加工によって試料表面を清浄化して活性にし低温(常温)接合が新たな工学技術になり得ることを明らかにした。(4)酸化物試料にナノメートルサイズの微小領域を金属被膜して電子照射することにより超微細突起形状を作製する手法を開発した。
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