我々は、「談話管理理論」の枠組みのもとで、かつて日本語の名詞、指示代名詞および終助詞の機能の記述を行ってきた。そこでは、言語コードが区分する情報の格納領域としてD領域とI領域の区別を設けることが有効であることを一貫して主張してきた。D領域とI領域は次のように定義できる。 D領域:長期記憶に結合されている。 直接経験や過去の経験から得られた直接的な情報が収められる。 直接的にアクセス可能である。 I領域:作業領域に結合されている。 伝聞、推論、定義的情報から得られた間接的な情報が収められる。 間接的にしかアクセスできない。 本年度の研究では、次のようなことを明らかにした。 ・D領域の要素を指し示す言語コードを直接形、I領域の要素を指し示したり、I領域に要素を設定する言語コードを間接形と呼ぶとすると、間接形には、話し手が間接的に情報を取得したことを表すものと、聞き手に対し間接的に情報を指示するためのものの2種が機能的に区別できる。 ・日本語では、一般に名詞句系の間接形には情報取得・情報提示の区別が形態的になされない。 ・モダリティ文は情報取得の間接形・ヨ文は情報提示の間接形と考えられる。 ・ヨ文には、「当該命題の証明可能性を保証する」という語用論的な習慣的意味が付与されるが、これは文脈によってキャンセルされる場合もある。 ・命令・依頼文にヨが付いたものは、「私は『……』と命令/依頼しつつある」という発話態度に関する情報を提示し、その発話行為の適切性を聞き手に証明させる文として理解できる。
|