ブラックホールのまわりのトーラスの構造を計算するコードを拡張して、中性子物質の領域における状態方程式を使用できるようにした。それを使用して、Bethe and Johnsonの状態方程式と温度一定の高温でのLattimer and Swestyの状態方程式を用いて、ブラックホールのまわりの中性子物質トロイドの定常状態を求めた。その際、トロイドの回転則としては比角運動量を一定とした。求められたモデルの自己重力は、トロイド中の最大密度が10^<15>g/cm^3程度を越えると、トロイドの内部に広いエルゴ領域ができるほど強い。さて、トロイドの定常状態のうちで、ロッシュローブを満たす状態にあるモデルを使って、トーラスの不安定性(runaway instability)を調べた。その結果、中性子物質トーラスでは、そのトーラスの質量によらないで、runaway instabilityが起きることが示された。これは、N=3のポリトロープのトーラスのふるまいとは異なっている。不安定に関与するファクターは、(1)トロイドの自己重力、(2)トロイドとブラックホールの質量比、(3)ブラックホールの角速度の変化と(4)トロイドの硬さである。このうち自己重力は不安定化させるファクターであり、自己重力を考えないとしてもトロイドの質量が大きいほど不安定化させる可能性がある。また、ブラックホールの角速度が大きくなるとカスプの位置はブラックホールに近付きトロイドは安定化される。さらに、トロイドの物質の硬さの影響は、柔らかくなるほど物質の流出によって不安定化し易いことがわかった。この中性子トロイドの不安定性は動的なもので、その時間尺度は10^<-4>秒程度となる。中性子星の合体などで形成されたブラックホールと中性子トロイドの系がγ線バーストをもたらすものというモデルがあるが、このrunaway instabilityを考慮するとトロイドがきわめて短時間しか存在できないことになって、観測を説明することが大変に困難になると結論される。
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