本研究では、X線CCDの放射線ダメ-ジによる特性変化を調べるため、『あすか』衛星に搭載されているX線CCDのデータをもとに、その長期にわたる特性変化について研究した。まず、超新星残骸の観測データ等、輝線放射の強い天体についてデータベースを作成し、その解析から放射線ダメ-ジの影響が電荷転送効率に現れることを確認した。一方、CCDの暗電流がかなりの割合で増大していることが明らかになり、そのピクセル間のばらつきがエネルギー分解能に著しい劣化をもたらしていることが新たに明らかになった。そこで『あすか』の全データを系統的に処理し、打ち上げから約1年半をカバーするデータベースを作成し、電荷転送効率と暗電流について系統的な調査を行った。その結果、電荷転送効率の低下量そのものは、地上実験からの予想とほぼ一致していたものの、電荷転送クロックの速さによらず、どのようなクロックでもほぼ同程度の低下量を示していることが判明した。これは、宇宙環境では様々なエネルギー準位のトラップができていることを意味しており、今回研究で得られた重要な結果のひとつである。一方、暗電流については、特定のピクセルに注目した時、何ヵ月にもわたって安定しているものの、放射線帯通過後などに不連続に増加しており、この散発的に起こる不連続な増加が全体的な暗電流増加をもたらしていることが明らかになった。この暗電流の増加は各ピクセルごとに独立して進行するため、ピクセル間の暗電流のばらつきが徐々に増大していく。これが、『あすか』搭載のX線CCDカメラの場合、著しいエネルギー分解能の劣化をもたらしている。この点も今回の研究で初めて明らかになった成果である。これらの結果をもとに、次期X線天文衛星搭載のCCDカメラでは、ピクセルごとの暗電流値を衛星上でモニターし、自動補正できるようにする予定である。
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