セラチア菌プロテアーゼと緑膿菌アルカリプロテアーゼの二種のZnプロテアーゼ(分子量約5万)の反応機構を時分割ラウエ法を適用して原子レベルで解明するには、良質結晶調製法や反応トリガー技術の開発、反応速度低下法と中間体捕獲法の確立などの実験法の開発が必要である。それには、まず基礎となる両酵素の静的構造を高分解能で精度よく決定する必要がある。アミノ酸配列に60%相同性を有するセラチアプロテアーゼと緑膿菌アルカリプロテアーゼのX線結晶構造解析を独立に行い、両酵素とも2.0Åという高分解能にもかかわらずR因子19%の高精度で構造を決定した。その結果、両酵素はβ-ヘリックスと呼ばれる新規構造を含む類似の立体構造を有する同じ酵素ファミリーに分類されうることが明らかになった。更に動的構造解析によって反応メカニズムを明らかにするために重要な酵素/阻害剤複合体の静的構造の決定を試みた。酵素/阻害剤複合体の結晶構造を解析し、酵素自身の構造と比較することによって基質結合時の酵素の構造変化及び基質結合様式を明らかにすることができる。両酵素に対するタンパク質性阻害剤としては現在のところα2マクログロブリンのみしか発見されていない。α2マクログロブリンは、高分子量タンパク質で本目的には適しない。そこで、ペプチド性阻害剤を調製して解析に用いた。この阻害剤は、動的構造解析のための阻害剤/基質転移物質を開発するうえで基本になると期待されるものである。差フーリエ合成法による解析の結果、阻害剤は酵素の活性部近傍に結合しているものの、阻害剤の溶解度が低いこともあって占有率に改良の余地があることが判った。今後この点を改良して活性部の構造を解明し、pHジャンプによる反応開始トリガー法の開発を行なう。
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