アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AspAT)は同じサブユニット2個からなる2量体である。サブユニットは大小2つのドメインからなり、基質結合時に小ドメインがコンホメーション変化を伴って、大きく動き活性部位を閉じる。これはopen⇔closed変化と呼ばれるもので、大腸菌から高等動物に至るまで、これまで高次構造の決定されたすべてのAspATにおいて見られる現象である。またこの変化が触媒反応にとって極めて重要である。我々の研究している大腸菌AspATは結晶状態を維持したままこの変化(反応)を起こすことがわかり、ラウエ法による触媒反応の動的解析の可能性が示された。AspATの触媒反応の動的X線構造解析を行うには、反応の各段階を基質類似体を用いてトラップし、それらの高次構造を明らかにしておくことが重要である。これまでPLP型AspATの高次構造を明らかにしてきたが、今回はPMP型AspATおよびPMP型AspATと基質阻害剤との複合体(2個)の高次構造を決定した。その結果に基づいて、PMP型AspATからPLP型AspATへ向かう数ステップの反応機構を提案した。特に重要な点は、基質類似体であるglutarateがopen型AspATに結合していたことである。分光学的研究より、AspATと基質類似体との複合体はopen型とclosed型との間の平衡にあることが推定されていたが、今回直接このことが証明された。基質はopen型AspATの活性部位に結合し、続いてclosed型への変化により、溶媒領域から隔離され疎水環境に置かれるのである。 これまで、一部の変異型AspATの結晶しか良質のラウエ回折パターンを与えなかった。酵素の精製法と結晶化法を改良し、野生型およびいくつかの変異型AspATについて、動的解析が可能な結晶の作製に成功した。今後、反応の遅い基質類似物を利用して、フローセルによる動的解析を行う予定である。
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