ハロゲン化ベンゼン誘導体の一種であるクロロトルエン分子の光化学ダイナミックスについて研究した。超音速分子流中におけクロロトルエン分子のレーザー誘起蛍光を測定するために、その装置を新規に制作した。4インチ径のクロスチャンバーを油拡散ポンプで10^<-6>Torr程度の高真空にして、そこに0.5mmオリフィスのノズルからHeあるいはArを数気圧の背圧でクロロトルエン分子の蒸気をパルスとして噴出させ、超音速分子線を得た。この分子線にNd:YAGレーザーの3倍波(355nm)で励起した色素レーザーの二倍波、すなわち波長が270〜260nmの光、を波長掃引しながら照射し、クロロトルエン分子を第一励起一重項(S_1)状態の各振電バンドに励起した。そして、そこからの発光である蛍光をモニターした。こうして、超音速分子流中におけるクロロトルエン分子のS_1状態からの蛍光励起スペクトルを測定した。その際、天然には^<35>Clと^<37>Clの同位体が約3:1の割合で存在するので、C-Clの振動が関与したバンドにはその同位体シフトが観測される。実際、o-クロロトルエン分子のC-Cl伸縮振動モードである7aモードには約2.9cm^<-1>の同位体シフトが観測された。このようにして、同位体シフトの値を励起スペクトルから測定すると、振動バンドの同定ができる。また、得られた蛍光励起スペクトルのピーク強度を吸光係数で割り算すると、その強度は無放射過程の速度に反比例する。7aモードの相対強度は小さく、したがって速い緩和が起こっていることがわかった。さらに、クロロトルエン分子クラスターについても、研究していく予定である。
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