動的ホールバーニング分光による溶媒の配向緩和ダイナミクス 溶媒の配向緩和過程のダイナミクスに関する研究は、主として、蛍光スペクトルの動的Stokesシフトの測定によって進められた。これは溶媒の配向緩和とともに蛍光状態のエネルギーが緩和する過程を観測する手法である。一方、動的ホールバーニングの測定では、基礎状態の吸収スペクトルの幅を決めている不均一な溶媒の配向分布の緩和過程が観測されるものと考えられる。 溶媒を連続誘電体として取扱う理論において線形応答の場合を考えると、Stokesシフトおよび蛍光またはホールスペクトルの幅の時間依存性を特徴づける時間相関関数は、時刻tにおける蛍光最大波数ν(t)、スペクトルの半値幅E(t)を用いて C(t)_<SS>={(ν(t)-ν(∞))/(ν(0)-ν(∞))}および C(t)_<HW>={(E(t)^2-E(∞)^2)/(E(0)^2-E(∞)^2)}^<1/2> で与えられる。 最近のStokesシフトに関する分子論的な理論および実験の結果によると、いわゆる慣性項によると考えられている数10フェムト秒の極めて速い緩和過程とピコ秒領域の配向緩和過程があることが明らかにされている。さらに、配向緩和過程も単純な指数関数には従わない結果となっている。 レーザー色素であるクレシルバイオレットの動的ホールバーニング分光をアセトニトリルやアルコール中で行った結果、その緩和の時間相関関数はやはり非指数関数であるが動的Stokesシフトの実験で得られた結果より遅い過程が主であるという結果を得た。これはエネルギー緩和に較べてスペクトル幅の緩和が遅いということを示した最初の例である。溶媒分子の速い配向緩和によるエネルギーの安定化の後、溶媒の分布に関する熱平衡状態に至るエントロピー緩和にスペクトル幅が関係しているものとして説明した。
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