本研究題目においては、光化学初期過程において生成するラジカル対を強い束縛環境下に置き、ラジカル間のスピン相関の寄与を積極的に研究するものである。今年度は1)クーロン力による束縛と2)包接化合物についての研究を時間分解ESR測定と、光検出による時間分解ESR測定を行い、新しい情報が得られたので報告する。 1)クーロン力による束縛:TMPDの2-propanol溶液に関して、その過渡的ラジカルイオン対からの逆電子移動による遅延蛍光観測による光検出時間分解ESR測定を行なった。この系においては、時間分解ESR測定から、このラジカルイオン対が正の交換相互作用を示すことは既に報告した。その光検出時間分解ESR測定から、ラジカルイオン対の共鳴磁場において、遅延蛍光強度の数%に及ぶ減少が観測された。この結果は、ラジカルイオン対の前駆状態が一重項であることを明白に示している。この信号は、減衰振動しており、またその周期は共鳴点をはずれると短くなる傾向を示した。この現象は一重項ラジカル対(S状態)が速やかにT_0状態と混ざり合い、三重項状態間を回転するとして説明が出来る。すなわち、遅延蛍光強度がS状態の濃度を反映するため、振動構造が観測されたと結論付けられた。 2)シクロデキストリン中におけるベンゾインの光分解:ベンゾインの水に対する溶解度は低く、飽和溶液でもCIDEP信号の測定は困難であった。β-シクロデキストリンを添加することによりベンゾインの溶解度は増大し、その結果ベンゾイルラジカルとヒドロキシベンジルラジカルによるCIDEP信号がマイクロ波の放出として観測された。この放出型スピン分極はベンゾインの三重項機構(TM)によるものと解釈でき、後者は数マイクロ秒で減衰したが、前者は非常に速く減衰した。この結果から、ベンゾインは包接された状態で光分解するが、生じたラジカルはその直後に速やかに溶液中に放出されると結論できた。
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