高輝度パルス水素原子線源の開発と散乱実験を行った。水素原子は、HIまたはH_2S分子を分子線中で光分解することにより生成し、水素原子は無衝突でこの分子線を脱出した後、30mm離れた衝突領域に到達する。前駆体分子が分子線中で極低温に冷却されていることと、解離のエネルギー放出が大きいことから、この水素原子の速度は極めて単色性が高く、その時間幅は前駆体分子線の空間的な大きさ(直径1ミリ)によって決まっている。水素原子線パルスの時間幅は35nsであった。水素原子の検出には、243nmの紫外光による2s←←ls共鳴〔2+1〕イオン化、あるいは、真空紫外レーザー光(Lyman α)による〔1+1'〕REMPIを行った。真空紫外光は、Krを用いた3倍波発生または共鳴四光波混合を用い、Ar添加による位相整合により変換効率を最適化した。この際、散乱チャンバーの残留気体が検出光により光分解、イオン化され、水素原子の背景雑音が発生したが、焼きだしと液体窒素パネルの使用によって散乱チャンバーの背景圧を10^<-8> Torr程度に下げ、低減させた。衝突領域に第二の標的分子線として、Arや重水素分子を導入したが、散乱された水素原子や化学反応によって生成する重水素原子は検出されなかった。これは、未だ、背景雑音の強度が充分抑え切れていないためであり、さらに低減する作業を行っている。
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