平成6年度の研究では稼働中のTR-IRASシステムに試料を極低温に冷却するシステムを新たに設置し、温度可変領域を25Kから1300Kとした。改良されたシステムを用いて「吸着による分子の対称性の破れと表面光化学反応」に関する研究を行った。対象システムとしては分子研の松本らにより最近報告されているPt(111)表面での吸着メタンの光解離反応(1)をとりあげた。 メタンはTd対称の分子であることが知られているが、25KでPt(111)表面に吸着した第1層目のメタンは表面との相互作用の結果Td対称性が破れていることがIRASの測定から明らかになった。Pt(111)表面でのメタン分子の光解離反応と上述の吸着状態との関連を調べることを目的として、約2層のメタンが吸着した表面に193nmのレーザーを照射し吸着種の経時変化を観察したところ、第1層目の吸着種に起因するピークのみが減少し、第2層目の吸着メタンに起因するピークするはほとんど変化していない。即ち、レーザー光照射によって第1層目の吸着メタン種のみが反応しメチルラジカルとなることが示された。反応種である第1層目のメタン種は気相の分子に比べ対称性が低下しており、このことと気相分子では解離反応が進行し得ないエネルギー領域の光での解離反応の達成との相関を現在検討中である。
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