[目的]薬用植物成分の生合成に関わる遺伝子をクローン化し、異種生物で高発現することによりその生産を図る研究は、今後ますます重要な課題になると思われる。植物に含まれる非タンパク性β-置換アラニン類には、スイカなどのウリ科植物に特異的なβ-ピラゾールアラニンをはじめ、ギンゴウカン(Leucaena leucocephala)に含まれるミモシンや、シクンシ(Quisqualis indica var.villosa)に含まれる中枢神経興奮性グルタミン酸レセプターのアゴニストとして注目を集めているキスカル酸など薬学的に興味深い物質が多い。これらの非タンパク性β-置換アラニン類の生合成は、ピリドキサールリン酸のアミノアクリル酸中間体を共通の酵素反応中間体として、システイン合成酵素によって触媒されている。そこでスイカシステイン合成酵素cDNAの大腸菌高発現系を作製し、この系を用いてこれら非タンパク性β-置換アラニン類のin vitroおよびin vivo合成に応用した。 [方法・結果]スイカ発芽体からクローン化したシステイン合成酵素cDNA[1]をT7プロモーターを持つ大量発現ベクターpET3dのNcoI部位に導入したプラスミドpCEN1を構築した。このプラスミドをT7 RNAポリメラーゼ遺伝子が溶原化した大腸菌BL21に導入したところ、スイカシステイン合成酵素タンパクが大腸菌全タンパクの10〜20%に達した。大腸菌の無細胞抽出液中に基質を加え反応させたin vitro酵素反応の結果、β-ピラゾールアラニンのみならず、キスカル酸、ミモシンの生合成も可能であった。また、この高発現系の大腸菌培養液中にβ-ピラゾールアラニン生合成の前駆体であるピラゾールと0-アセチルセリンあるいはセリンおよび誘導剤IPTGを加えて培養したところ、培養液中にβ-ピラゾールアラニンが蓄積した。以上のように異種生物でのこれら植物特異的二次代謝産物の大量生産系を確立することができた。
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