有機化学的新手法を駆使して開発した3成分連結PG合成法を機軸として化学的に安定かつ高いプロスタサイクリン(PGI_2)活性をもつ人工類縁体イソカルバサイクリンの高効率合成を達成した。この手法によりPG受容体探索子の分子設計に用いる基本PG中間体の効果的供給が可能となった。さらに、このイソカルバサイクリンの構造修飾により、光親和性受容体探索子APNICを開発した。APNICを用いた受容体結合実験によりAPNICは受容体への特異的結合量が全結合量の約70%であること、癌化肥満細胞の細胞膜PGI_2受容体に選択的に結合し、同じ膜上に存在するPGE_2受容体への結合はしないことなどがわかった。さらに、受容体タンパク質の光親和性標識実験を行い、癌化肥満細胞、ブタ血小板、さらに、ヒト血小板中のPGI_2受容体タンパク質をはじめて同定することができた。一方、成宮、市川らはヒトPGI_2受容体のcDNAのクローニングに成功し、その遺伝情報からPGI_2受容体のタンパク質部分構造を提出している。現在、成宮らとの共同により構造活性相関を検討している。 次に、中枢神経系特異的PGI_2受容体探索分子としてin vivoでの脳内動態解析を目指した陽電子放射断層写真撮影法(PET)用超高感度探索分子の設計を試みた。その結果、イソカルバサイクリンのω側鎖部の構造修飾により、新しい受容体探索分子を開発することに成功した。この化合物は中枢神経系である視床部位のPGI_2受容体に強くかつ特異的に結合する。現在、探索分子のin vitroにおける生化学的活用、およびウプサラ大学との共同研究下に有機金属化学的手法によるポジトロン^<11>C核種を導入したPET用探索分子の合成を検討している。
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