近年、様々な形態で生体物質に対して働きかける人工材料の開発が期待されている。しかし、これまでは、希土類錯体を生命化学に応用した例は皆無に近く、全く未開の分野であった。平成7年度には、我々は、平成6年度に蓄積した基礎的知見をさらに発展させて、目的材料の開発へと推進した。小宮山は、DNAやRNAの加水分解に対する高触媒活性を維持したままで、しかも分子認識能を持つ高機能希土類錯体を合成することに成功し、DNAやRNAを望みの位置で切断する人工制限酵素を開発した。また、希土類イオンと希土類イオン以外の金属イオンとを組み合わせたり、あるいは複数の希土類イオンを組み合わせると、核酸の加水分解に対する触媒効果が著しく向上することを見い出した。一方、辻は、希土類錯体と生体分子とをハイブリッド化し、生体内の特定分子に対して選択的な結合能を持ち、しかも大きな蛍光強度を持つ希土類錯体を構築した。こうして、従来の放射性元素を利用する分析法に十分に匹敵する高感度をもつ生体分子の効率的分析法を構築した。また、希土類錯体の触媒作用と発光現象を巧みに組み合わせることにより、反応系内の希土類イオンの濃度を、簡便かつ高感度に定量分析する手法の開発にも成功した。このように、研究代表者、研究分担者のいずれの研究も順調に進行している。
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