DNAはヌクレオチドがリン酸ジエステル結合により多数結合した高分子で、非常に安定な化合物である。最近このDNAが希土類Ce(IV)イオンによって効率的に加水分解されることが実験的に見い出され注目を集めている。本研究は、この実験事実に対してab initio分子軌道法を適用し、実験グループによって提案された「リン酸へCe(IV)イオンが配位した後、解離した配位水がリン原子への求核攻撃により5配位中間体を形成する。その後解離していない配位水による酸触媒作用によってP-O結合が開裂する」という反応機構を理論的に検証し、リン酸ジエステル結合に対するCe(IV)イオンの反応性、特異性を明らかにすることを目的としたものである。 2量体DNAチミジル(3'-5')チミジンのモデル化合物を理論計算によって電子構造や最適構造を明らかにし、またRNAとの差異を議論した。dimethylphosphateを二量体DNAのモデルとしてリン酸結合加水分解反応を理論計算よって追跡し、Ce(IV)イオンが関与しない場合には、OH-がリン原子に求核攻撃をかける際に大きなポテンシャル障壁が存在すること、しかし一旦5配位中間体が生成されれば、加水分解反応は容易に進行することを明らかにした。Ce(IV)イオンは、反応の初期にあらわれるポテンシャル障壁を下げる役割りを持つものと期待される。Ce(IV)イオンがリン酸に配位した後、Ce(IV)イオンのもつOH-がリン原子を求核攻撃する際にも、ポテンシャル障壁は大きく、実験グループが提唱している機能では反応が進行しないことを明らかにした。この加水分解反応は、1分子反応ではなく、溶媒の水分子によるSN2反応で起こる可能性が高く、現在理論計算によって検証している。
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