本研究は、ランタノイド錯体の特徴を活かして高活性なビオチンモデル(活性化二酸化炭素担体)を開発することを目指し、各種ランタノイド錯体への二酸化炭素の捕捉と、他の有機化合物への転移固定について検討する。生体内において、温和な条件下で二酸化炭素を固定する反応の中間担体として機能しているビオチン補酵素は、その反応過程において金属イオンが重要であることが知られている。ランタノイド元素は、同じ3族のアルミニウムなどと比較して、電気陰性度が小さい、イオン半径が大きい、さらに4f軌道を有しているので様々なπ電子系が配位できるなどの特徴を持つ。しかし、ビオチンの作用における金属イオンの関与に関連してランタノイド化合物を用いた研究例はない。また、近年、ランタノイド化合物は、そのユニークな反応性から有機合成への新しい利用が活発に試みられているが、二酸化炭素の化学的固定への利用もほとんど例がない。そこで、本研究では、ランタノイド化合物と二酸化炭素との反応を検討した。具体的には、ビオチン補酵素の活性部位に着目し、ランタノイドアルコキシドにイソシアナ-トを作用させた付加体を二酸化炭素の担体として用い活性メチレン化合物のカルボキシル化反応を検討した。その結果、非常に温和な条件の下、種々の活性メチレン化合物のカルボキシル化に成功した。特に、チオプロピオン酸S-エステルから2-メチルマロン酸エステルを生成する反応は、生体内におけるプロピオニル-CoAのカルボキシル化のモデル反応としても興味深い。
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