本研究は、光起電力材料の前駆体として希土類イオンを位置付け、その特徴的な光活性を生かして太陽電池母材に有効に太陽光エネルギーを移動させ、高効率の太陽電池を開発する事を目的としている。具体的には、太陽電池の表面に蒸着されている無反射膜に、希土類イオンをドープする事によってこの目的を達成できる。この実験では、太陽電池の無反射膜材料の屈折率に近いCaF_2にEu(4f^7)をドープした単結晶を用いた。使用した太陽電池の効率を1として、Euの種々の仕込み濃度を持った単結晶に対する効率の上昇の相対比を、太陽電池受光面での照度を変えて調べたところ、ほぼ全ての結晶で効率の向上が認められ、基本的に希土類Euを使うアイデアは有望であることが明らかとなった。そして効率の上昇のためにはEu濃度に最適値があり、それはモル濃度で0.05mol%であることが実験的に求められた。この濃度で最大の変換効率の相対比は、照度1万ルックスで1.5に達し、通常のアモルファス太陽電池の変換効率を10%とするとEuの効果によって5%もの効率の上昇を見込めることになる。得られた実験データは、絶縁体結晶にドープした希土類イオンが太陽エネルギーの高エネルギー側成分を、低エネルギー側成分へと十分に変換を可能とさせるものであり、太陽電池の変換効率を上昇させることを示した。しかし実用的には、絶縁体結晶部分を電池の無反射膜にそのまま適応できるような方向に持っていくことが必要である。そこで太陽電池の無反射膜のダミ-として、純粋なCaF_2の薄い単結晶に最大加速エネルギー200keVのイオンインプランテーション装置を用いて、Euメタルを蒸発させて加速注入し、光吸収を測定してそのド-ズを確かめたが、アニール後Euの光吸収は消え、Euは脱離したものと思われた。更に注入後に表面が薄く着色し、透明度の低下を伴うことが判明し、アニールには、上記の目的と同時に着色をも取り除く条件が要求されねばならず今後の課題となった。
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