希土類の分子性酸化物といては(ア)希土類元素と酸素とのみからなる、いわゆる希土類ポリオキソカチオンと(イ)既存の分子性酸化物に希土類原子を付加させたものの二種類が考えられる。同じ分子性の酸化物であるポリオキソアニオンが酸素原子によって定義された安定な表面を持っているのに対し、(ア)の希土類ポリオキソカチオンは希土類金属原子が表面に露出した本質的に不安定な構造を持っていると考えられ、これを単離するには、その表面を適当な方法で保護してやる必要がある。希土類金属イオンの加水分解、縮合を阻害することなく、生成したポリオキソカチオンの表面を保護する方法について現在検討中である。 (イ)の如き希土類分子酸化物の合成には、出発物質として高いベーシシティを持ったポリオキソアニオンが必要となる。また、これらのポリオキソアニオンは有機溶媒に可溶である必要もある。分子性酸化物は水溶液中では複雑な平衡状態にあり、水溶液中で反応を行ったので効率的な合成・単離が困難であるからだ。本研究では有機溶媒に可溶で、高いベーシシティを持った分子性酸化物として[Cp^*TiMo_5O_<18>]^<3->(1)V_4O_<12>^<4->(2)、W_7O_<24>^<6->(3)の三種を新たに合成した。前二者についてはテトラブチルアンモニウム塩として、3についてはt-ブチルアンモニウム塩として単離している。また、1、3についてはX線結晶構造解析を行いその構造を明らかにした。 有機金属化合物との反応により、これら三種のポリオキソアニオンが予想通り高いベーシティを持つことを確認した。中でも2は一分子当り二分子の有機金属分子を保持する程の高いベーシシティを持つことが明らかになったので、これとY^<3+>とを反応させることにした。反応を^<51>VNMRでモニタした結果、[Y]/[V]が1及び5の時にそれぞれ単一の化合物が生成していることが分かった。
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