研究概要 |
以下に4課題についての研究成果をまとめる。 結晶性高分子による不斉分子認識:フェニル基上にフルオロ基とメチル基やトリメチルシリル基などを有する新規多糖フェニルカルバメート誘導体がHPLC用キラル固定相として高い不斉識別能を示し、幾つかの誘導体がクロロホルム等の溶媒に可溶であったので、ラセミ体との相互作用を^1H NMRを用いて直接観測することができた。また、分子認識解析措置(本年度購入)を用いて、セルローストリスフェニルカルバメート誘導体と光学異性体との相互作用エネルギーを分子力場計算で見積ったところ、HPLCの結果を支持する計算結果が得られ、コンピュータシミュレーションもまた、不斉識別機構を議論するうえで有用であることがわかった。フェニル基上のパラ位にカルボキシル基を有する立体規則性ポリフェニルアセチレンが様々の光学活性アミン存在下、主鎖の共役二重結合領域にアミンの絶対配置、立体構造を反映した分裂型の誘起円偏光二色性(ICD)を示すことを見い出した。 有機結晶における分子配列と反応の制御:アントラセンのビスレゾルシン誘導体が2次元水素結合ネットワークに基づく多孔質結晶を与え、種々のゲストを化学量論的に取り込むのみならず、空孔内Diels-Alder反応の触媒となるなど、真の「有機ゼオライト」であることを見いだした。また、結晶構造解析システム(本年度購入)を用いた構造解析により、アントラセンやアントラキノンのビスレゾルシン、ビスピリミジン誘導体などのorthogonal aromatic triadにおける制御された分子間相互作用を利用することにより、結晶内に芳香環カラムを意図的に構築できることなどを明らかにした。 有機結晶のクリスタルエンジニアリング:X線結晶構造解析の結果を基に、ジアステレオマ-塩法による光学分割における被分割化合物と分割剤の構造相関を求めた。その結果,被分割化合物の分子長が分割剤の分子長とほぼ同じかやや短い場合に,良好な分割結果が得られるとの作業仮説を立てた。この作業仮説に基づき新たな組み合わせによる光学分割を行ない,極めて良好な結果を得た 結晶反応場における中間体の解析と制御:アリールアジドの結晶に、低温で紫外線照射を行い、発生させたナイトレンは、気相、溶液中と比較し、速度論的に著しく安定であり、特に、p-カルボキシルフェニルナイトレンの場合には、室温で10日という驚異的に長い半減期をもち、このような結晶環境下で光化学的に発生したアリールナイトレンは、反応場の分子環境を認識しつつ挙動することを、ナイトレンの消減速度に関する熱力学的パラメター、生成物分析より明らかにした。
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