本年度は次の2研究が中心であった。無機半導体量子細線構造に変調電子ド-ピングを施した擬1次電子系のバンド間光学遷移における多体効果、および2.ジョセフソン接合系での非古典的光子場発生のダイナミクス。 1.低温においてシャープなフェルミ面が形成されている場合、そのフェルミ面の存在が光学応答に及ぼす多体効果として「フェルミ端特異性(FES)」に着目した。最近、磁場中の量子細線でのFESを観測した実験が報告され、伝導電子帯がスピンサブバンドに分裂している場合のFESが興味を集めている。そこで、フェルミ面がスピン偏極している場合(スピンによってフェルミ波数やフェルミ速度が異なる場合)のFESを研究した。量子細線中の縮退電子系を朝永-ラッティンジャー(TL)流体として記述し、TLボゾン化の手法により伝導電子間の電子相関を低エネルギー極限で正しく取り入れ、スピン偏極したフェルミ点を持つ1次元電子系のFES臨界指数を初めて解析的に得た。各スピンサブバンドのフェルミ速度が等しい場合と異なる場合とでフェルミ準位近傍の集団励起が著しく異なることを明らかにし、それぞれの場合で臨界指数の符号(正負)に関する相図を得た。これにより、電子相関や電子正孔相互作用と光学スペクトル端の形状との関連が明らかになった。さらに、円偏光の旋光方向により吸収帯スペクトル形状が定性的に異なることを見いだし、多電子系のスピン構造や電子相関のスピン依存性と円偏光光学応答との関連についての基礎的知見が得られた。今後は、非線形光学応答でのFESを考察する予定である。 2.量子化された光子場を電子系によって制御するモデルとして、ジョセフソン接合中をトンネルするク-パ-対と量子化された光子との相互作用系を考察した。そのダイナミクスを準古典的(電子系はc数で近似)に取り扱い、直交位相振幅スクイズド光が得られる結果を得た。モデルの詳細を検討中で、全量子力学的考察にまで発展させる予定である。
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