外界の環境が悪くなると細胞が自己の構成成分を非選択的に分解コンパートメント内で分解する機構-自食作用は真核生物に普遍的に存在する重要な生理現象である。 私はこの分野に初めて遺伝学的な手法を導入し、自食作用不能(apg)変異株を15個分離した。これらのAPG遺伝子の解析を通じて自食作用のシグナル伝達系と膜の動態の素過程を明らかにすることを目的として研究を進め本年度には以下の成果が得られた。 (1) Apglpは新規なタンパク質キナーゼをコードしており、その活性は自食作用に必須であることを示した。そのキナーゼ活性は飢餓条件によって誘導されることが明らかになった。 (2) 新たにAPG4、APG5、APG6、APG8、APG10、APG13のクローニングを行い、APG5、APG6、APG10、APG13についてはその塩基配列を決定し、いずれも自食作用に必須の新規の遺伝子であることが明らかとなった。その遺伝子発現調節、遺伝子産物の同定、細胞内局在等の解析を進めている。 (3) 分子生物学的手法により、液胞膜酵素Pho8pの局在化シグナルを含むN末端部位を欠失したタンパク質を細胞質に発現させ、その自食作用に伴う液胞への移行と活性型酵素への変換を指標として、自食作用を定量化する方法を確立した。従来の既存のタンパク質の分解ではなく、活性の出現という正の選択が可能となり新しい一群の自食作用不能株の分離とその解析を進めている。 (4) フリーズフラクチャー電顕により、自食体の膜が、大きな膜内タンパク質をほとんど欠く極めて特異的な膜系であることを示すことに成功した。
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