グルタミン酸受容体は、中枢神経系において高次脳機能や病的状態の神経細胞死に深く関与しており、イオノトロピック型のNMDA受容体とAMPA/カイニン酸受容体及びメタボトロピック受容体(mGluR)から成る。我々のグループは、分子生物学、薬理学、電気生理学などさまざまな手法を用い、グルタミン酸受容体の構造及び機能について明らかにしてきた。本年度は、神経細胞の生存と死におけるNMDA受容体の役割に焦点を当て研究をおこなった。 NMDA受容体は、高いカルシウムイオン透過性をもつため、神経細胞の生存と死に深く関わっていると考えられている。我々は、小脳顆粒細胞の初代培養系をモデルとして、以下のことについて明らかにした。 1.小脳顆粒細胞では、脱分極刺激又はNMDA刺激によって細胞内Ca^<2+>濃度が高められ、その結果、NMDA受容体のサブユニットの一つであるNR2AサブユニットmRNAの発現が特異的に増加し、NMDA受容体活性が増加することを示した。また、そのとき顆粒細胞の生存率が高められる事を示した。 2.脱分極刺激によるNR2Aの発現増加によって、NMDAによる顆粒細胞の細胞死が起こるようになることを示した。 3.2の細胞死は、NR2AmRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドによって抑制されることから、NMDAによる細胞死は、NR2Aの発現増加によって顆粒細胞のNMDAに対する感受性が変化した結果であることを明らかにした。 以上から、我々は、小脳顆粒細胞の初代培養系において、NMDA受容体の特定のサブユニトの遺伝子発現の調節が、NMDA受容体活性の調節を支配し、そのことが神経細胞の生存と死に深く関与することを明らかにした。
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