研究概要 |
アルツハイマー型老年痴呆脳に蓄積する二種類の異常構造体である老人斑と神経原繊維変化(PHF)は、アミロイド前駆体蛋白(APP)あるいはタウ蛋白という正常蛋白から、蛋白分解や蛋白修飾により生じた蛋白を主成分としていることから、これらの蛋白の代謝過程に起こった異常が原因ではないかと考えられる。本研究では、正常状態におけるこれらの蛋白の代謝経路、および加齢に伴うその変化を明らかにし、異常構造の形成機構を解明することを目的としている。本年度は、個体レベルの軸索内輸送系と、培養神経細胞の系を併用して、実験を行い、以下の結果を得た。 1.ラット坐骨神経運動繊維の系を用いて、β,β'-イミノジプロピオニトリルによるニューロフィラメントの軸索内輸送阻害と異常蓄積を実験的に作り出して解析した結果、停止した蛋白を選択的に分解する機構が存在することがわかった(J.Neurochem.,63,291-300)。異常蓄積を早期に解消する機能をもつと思われるこのような蛋白分解酵素について、引き続きその性質を調べるとともに、活性化機構を検討している。 2.full length APPが軸索内を速い順向性輸送で運ばれていることを確認した。逆向性輸送についても、APP断片に対する種々の抗体を用いて検討中である。 3.タウ蛋白についての知見のほとんどは、脳可溶性タウまたはPHFタウに関するものである。今回、正常な末梢神経軸索に存在する分子種を検索した結果、高度にリン酸化された66kDaのタウが主体であることを見出だすとともに、その軸索内輸送を確認した。加齢や神経傷害に伴う輸送量ならびに分子種の変化を、現在、検索中である。
|