アルツハイマー病患者の脳でみられるPHFは高度にリン酸化された微小管結合蛋白質タウから構成されていることが知られており、このリン酸化に関わるキナーゼとしてGSK3β(タウプロティンキナーゼI)、cdk5(タウプロティンキナーゼII)とMAPキナーゼが候補にあげられている。昨年度、我々はcdk5に対する特異的阻害剤を用いて、ブタ脳抽出液中ではcdk5が最も主要なタウキナーゼであることを報告した。今年度は、タウのcdk5によるリン酸化の微小管による促進機構について検討した。神経細胞内ではタウの殆どは微小管に結合していると考えられ、微小管存在下でのタウのリン酸化がより生理的な条件を反映していると考えれる。タウのcdk5によるリン酸化はチューブリン濃度に依存して促進された。この促進は微小管と結合しないペプチドをリン酸化の基質としたときにはみられないことから、リン酸化の促進は微小管によるcdk5の活性化ではなく、タウが微小管に結合したことによる構造変化を反映していると考えられた。リン酸化の促進に部位特異性があるかを、二次元フォスフォペプチドマップにより検討した。微小管を加えると一つのスポットのリン酸化シグナルが亢進しているのが観察された。この部位を、cdk5のリン酸化部位のリン酸化型を認識する抗体を用いて調べたところ、Ser202とThr205が微小管存在下で選択的にリン酸化が増加しているのが観察された。この部位のリン酸化がPHF形成にどのように関係しているかを今後調べていく予定である。
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