PHPの構成成分の研究から、アルツハイマー病脳では微小管構成タンパク質の翻訳後修飾が異常となっていることが示唆されている。本研究は、微小管の主成分であるチューブリンの翻訳後修飾の異常の有無について検討した。まず、等電点電気泳動とアイソタイプ特異的、翻訳後修飾部位特異的モノクローナル抗体を併用した翻訳後修飾の解析系をもちいて、アルツハイマー病脳に多い不溶性チューブリンについて、正常脳の同画分と比較した。その結果、α-チューブリンのアイソフォームには大きな差がないが、β-チューブリンの場合に病気の脳に特異的な塩基性アイソフォームが認められた。次に、α-、β-両チューブリンに共通に存在する翻訳後修飾部位を認識する抗体K9との反応性を比較し、アルツハイマー病脳では、正常脳に比較してβ-チューブリンとの反応性がかなり弱いという結果を得た。この抗体は、胎児脳では主としてα-チューブリン、成熟脳では両チューブリンと反応する。以上のことから、アルツハイマー病脳では、β-チューブリンの翻訳後修飾が異常となっていること、しかもそれは胎児型の翻訳後修飾であることが示唆される。PHF中のタウやMAP1Bが胎児型のリン酸化を受けていることが報告されているが、チューブリンの翻訳後修飾もまたは胎児型であることは、この病気の脳における微小管の機能異常を考える上で興味深い。
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