ネコ免疫不全ウイルス(FIV)感染症におけるエイズの発症系をヒトエイズの動物モデルとして活用するため、FIV感染系におけるアポトーシスおよびウイルス変異株に出現について解析を行った。 培養細胞系においては、ネコのTリンパ芽球様細胞株にFIVを感染させたところ、5日後には逆転写酵素活性の上昇とともに、アポトーシスに特徴的な形態変化およびDNA断片化が観察され、FIVがアポトーシスを誘導することが明らかとなった。また、このアポトーシスの誘導はIL-2のシグナル伝達機構の障害に関連するものと考えられた。一方、自然感染ネコの末梢血リンパ球(PBL)を培養した場合にも、24時間という短時間のうちにアポトーシスが誘導されることが見出された。また、このアポトーシスは、T、B両細胞分画に見出された。このことから、感染ネコの体内においても、実際にリンパ球のアポトーシスが進行していることが示唆された。 つぎに、FIVの変異と病原性との関連を明らかにするため、脳炎および骨髄抑制が認められた2例のFIV感染ネコの大脳、骨髄、リンパ節からenv遺伝子を増幅し、その塩基配列を解析した。脳炎ネコにおいては、いずれの組織においても98%以上の相同性を示すほぼ均一なウイルスが存在していた。また、そのウイルスは系統樹解析においてこれまでの日本分離株とはかなり遺伝子的に遠い位置に存在し、神経病原性が示唆されているpetaluma株と近縁であることが注目された。また、骨髄抑制が認められたネコの各組織由来16クローンは、クローン間で11.1%と著しい遺伝子的多様性を示した。さらに、そのうちの5クローンは終止コドンのために複製欠損ウイルスとなっており、骨髄抑制の発症とこれらウイルス変異と関連が注目された。
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