細胞の情報伝達および機能維持において蛋白質リン酸化反応は重要な調節機構であることが知られているが、神経系は蛋白質リン酸化活性が他の組織に比べて極めて高く、ニューロンの基本的性質と構造を理解する上で重要な反応であると考えられる。本研究では、カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(キナーゼII)のユニークな性質に着目しニューロンの特性を解析しようとしている。ショウジョウバエのキナーゼIIのmRNAが脳・神経系特異的ともいえる発現パターンを示すことは、酵素の機能と密接に関係すると考えられるが、そのメカニズムは明かにされていない。そこで、キナーゼIIのmRNAの発現が転写制御によるものと考え、キナーゼII遺伝子の上流領域にlacZ遺伝子を結合したベクターを構築し、これを導入したトランスジェニックフライを作成し、胚における発現パターンをin situ hybridization法により解析した。キナーゼIIの脳・神経系特異的ともいえる発現が、mRNAの安定化によるのでなく、転写レベルで制御されていること、および、この領域に組織特異性を決定するために必要な配列が存在することが明かとなった。転写開始点はショウジョウバエのコンセンサス配列である(TCAGTY)によく一致した。さらに、脳・神経系での発現に必要な転写制御領域は、転写開始点より5'側に0.5kbpと3'側に143bpの範囲に存在するものと考えられた。今後は、脳・神経特異的発現を制御する転写調因子および転写調節機構を明らかにするとともに、キナーゼIIの種々の変異体を分離同定することによって、高次機能におけるキナーゼIIの役割を明らかにする。
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