ショウジョウバエのHairless (H)遺伝子は、Suppressor of Hairless(Su(H))遺伝子と拮抗的に作用し感覚母細胞の分化の運命決定に関わっている。Su(H)蛋白質は配列に特異的なDNA結合蛋白質であり転写因子であるが、H遺伝子産物の性質は不明であった。H遺伝子産物がどのような機序でSu(H)蛋白質と拮抗するかを明らかにするとともに、マウスのH相同遺伝子を同定する目的で研究を始めた。 最近、A.IsraelらのグループはH蛋白質が直接Su(H)蛋白質と結合し、Su(H)蛋白質のDNA結合活性を阻害するとともにSu(H)による転写促進をも阻害することを報告している。我々は、Su(H)蛋白質が転写レベルでH遺伝子の発現を抑制している可能性も検討してみた。我々は、H遺伝子の5'上流領域を約3kbクローニングし、塩基配列を決定してその中にRBP-Jkの認識配列(CGTGGGAA)が存在するか検討した。この結果、転写の開始点から約700塩基上流にCTGTGGGAAの配列を発見した。この配列は、ショウジョウバエのE(spl)遺伝子群のm8遺伝子のプロモーター内に見られるSu(H)結合配列と同じであった。現在、su(H)結合配列を含むプロモーター領域を導入したレポータープラスミドを作り、転写活性を検討中である。 H遺伝子のマウス相同遺伝子を同定するため、ショウジョウバエのcDNAをプローベとしてマウスのゲノムDNAのSouthern blottingやcDNAライブラリーを検索したが、相同なDNA断片は見つけられなかった。現在、種々のdegenerateプライマーを用いたPCRによる検索と、RBP-Jk蛋白質のDNA結合活性の阻害活性としてマウスH蛋白質を同定する試みを進めている。
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