トランスジェニック法を用いた異所発現(ectopic expression)は分子の生体での機能を解析するための重要な手段の1つである。本研究では異所発現系の神経特異結合研究への応用の有用性を調べるために、細胞接着分子Connectinの異所発現を試みた。Connectinはleucine rich repeat familyに属する膜蛋白質で、その神経、筋双方における特異的な発現から、神経-筋結合過程における標的認識に関与していることが期待された。そこで少数の筋肉での発現を促すTollのエンハンサー、全ての筋肉で発現するMHC(myosin havy chain)promoterにConnectinのcDNAを結合しP因子転換法を用い個体に導入した。その結果、転換株において予想どおりのConnectinの異所発現が認められた。転換株における運動神経走行を調べたところ、Connectinの筋肉における異所発現が、運動神経SNaにたいし誘引的な、そしてSNbに対し阻害的な働きかけをすることが明らかになった。このことから、神経-筋結合過程においてConnectinは、2重の役割を果たしていることが示唆された。すなわち、まず共にこの分子を発現する、運動神経(SNa)とその標的筋肉間のhomophilicな誘引分子として機能することにより、両者の結合を促進する。それと同時にSNbなど近傍の他の神経にたいし、heterophilicな阻害分子として働きかけることにより、これらが不適切な標的領域に侵入することを阻害していると考えられる。 本研究は異所発現系を利用してこの種の神経特異認識分子の機能を示した最初の例の一つであり、この系の有効性を示すものである。今後エンハンサーをさらに拡充することにより、特定の神経筋肉、神経における異所発現がさらに自由に行えることが期待され、神経結合の特異性を分子レベルで操作できる非常にユニークな場を提供するであろう。
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