われわれは今までにシナプスの諸問題に焦点をあてながらショウジョウバエの運動機能異常変異株の解析を行ってきた。本研究では、運動機能の低下を示す変異株の解析から新たにシナプスで機能するhicl遺伝子を同定しその解析をすすめた。構造解析の結果より、この遺伝子は約20アミノ酸からなる単位の内部繰返し構造を持ち、またシステインがある一定の間隔に多数存在する領域を持つ他、さらに興味深いことにGタンパク質と相互作用するタンパク質に見られるPHドメインを持っていた。抗体を用いた解析から、このタンパク質は中枢神経系ではシナプスが多い領域で顕著な局在が見られ、また神経-筋接合部においてもその存在が確認された。電子顕微鏡を用いて脳の免疫組織学的な解析をするとhiclタンパク質は前シナプス末端の活性領域と思われる部位近傍に集合しているシナプス小胞を含む細胞質領域に存在していることが判った。これらの結果からわれわれはhiclタンパク質がGタンパク質を介したシグナル伝達の構成因子としてシナプス伝達における小胞の放出ないしはエンドサイトーシス機構にそのひとつの機能を持つと考えている。今後は、より強い変異の分離を行い、変異株のシナプスにおける電気生理的な解析とシナプス小胞の分布変化を解析することによりhiclタンパク質の神経伝達における役割を明らかにしていく必要がある。さらにhiclタンパク質が実際に低分子量ないし三量体Gタンパク質と相互作用するのかどうかを調べるとともに、複雑なタンパク質コンプレックスを作ると言われているシナプス小胞融合調節装置のどのタンパク質とさらに結合するのかを明らかにしていかなければならない。
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